
総合内科医と、医療人のキャリア支援を行なう組織のリーダーを兼務。
総合内科医として主に臨床(外来)に従事しながら、教授として地域医療を支える医療人の養成に携わっています。また、医療人のキャリア支援(離職防止、復職支援)を行う「医療人キャリアセンターMUSCAT」の責任者も務め、特に、女性医師が出産後に復職できるような仕組みづくりや、復職した女性医師の支援を行ってきました。医師の仕事は、人命に直結します。責任が重く、長時間労働が当たり前の状態であり、さらに、当直や夜勤、オンコール体制(祝日や休日も24時間対応が求められる)などに対応しようと思うと、出産・育児との両立が困難なため、以前は女性医師が出産後に離職を余儀なくされることも稀ではありませんでした。
女性医師の仲間を支えることが喜びに ー ターニングポイント ー
私は、病棟医長など責任ある立場にいた32歳の時に結婚しました。働き方のペースを変えることも一瞬考えましたが、「結婚したから仕事ができなくなったと言われないでほしい。仕事は思い切りしてほしい。」との夫の一声で前にもまして仕事に邁進、結婚1年後には単身留学。留学後34歳の時、女性医師のキャリア支援を行うプロジェクトを立ち上げました。50以上の他大学とプランを競い合い、文部科学省による大学教育改革支援事業の一つ「地域医療等社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム(医療人GP)」に選定されたのです。子どもはいなかったので自分の時間を存分に使えましたが、プロジェクトリーダーも、スケジュールや予算の計画・管理、人材の雇用、チームの運営など初めてのことばかり。しかも、3年で結果を出さなければならず、プレッシャーでした。偶然にもパートナーになってくれたスタッフがコーチングの有資格者で、何かに行き詰まると「今、何に困っていますか?」「できているのはどこまでですか?」「次に何をやったら先に進むと思いますか?」と問題解決の相棒を務めてくれたのです。また、同世代の女性医師10人で結成した企画委員会でどうすれば出産後も離職せずに続けられるかを話し合った結果、「一人ひとりに合わせたオーダーメイドの復職支援」と「産休・育休後に週1日勤務から可能とする段階的な復職制度」が必要という結論に至りました。最終的には、病院長と交渉し、私たちの提案を受け入れていただき、新しい復職制度を実現することができました。
すべての働く女性は、誰かのロールモデルになれるはず。
私は仕事を断るのが苦手で、責任ある仕事をいろいろ兼務して「もうこれ以上できない」と思うことも何度かあり、断れない自分がいけないのではないかと自問したこともありました。そんな時ある先輩女性医師の「自分は頼まれた仕事は一度も断らず、全部チャレンジしました」という言葉を聞き、「与えられえた機会に迷いなく飛び込もう」と思えるようになりました。色々考えるより目の前のことに全力で向き合うやり方が結局自分には合っているのだと思います。
岡大病院では現在、妊娠・出産を理由に離職を考える女性医師はほとんどいないのではないでしょうか。復帰時期も早まっています。すべての人は後に続く誰かのロールモデルだと思います。私は臨床に一生をかけて取り組みたい。多くのプロジェクトを同時進行していても、患者さんのために尽くしたいと思う気持ちは私の中心であり、一度も揺らぐことはありません。一人一人が自分自身の道を一歩ずつ歩み続けることが、やがて新しい道をつくっていくのではないでしょうか。
家事も子育ても夫と分担
女性医師の支援を経験したことで
子育ての経験や対処法を学習できた。
43歳で出産した子どもは、いま2歳。女性医師支援の経験が幸いし、「こんな時は、こうすればいい」という、みなさんの課題への対処方法を知識として学んでいたことが自分にとっても役立ちました。そもそも、子育てと仕事を両立するには、ありとあらゆる工夫が必要、という心構えがあったので、心に余裕も持てました。夫は私の仕事に理解があり、とても助かっています。家事も子育ても、できることをできる方がやると決めて夫と上手に分担しています。
出産後の段階的な復職を可能に
現場に歓迎され、しかも一人ひとりに
寄り添うオーダーメイドの復職支援。
以前は「現場に迷惑をかけられないから」と妊娠出産を機に職場を去るケースが少なくありませんでした。理由は、当直や24時間365日呼び出しのある不規則で長時間の働き方が求められ、育児との両立が現実的に困難だからです。当直やオンコールができない条件で働けば、周りの人にその分の負担がかかります。そこで、元々の定員内のポジションで復職するのではなく、出産後はプラスαの人員という形で復帰できる制度を提案し、病院全体で運用することになりました。さらに、働く日数や時間などをすべてフレキシブルに設定し、働きながらさらに時間数などを調整できるようにしたところ、多くの女性医師が制度を活用し、現場を離れることなく無理なく働くことが可能となりました。
中立な立場を保つことの大切さ
女性だけでなく、現場に関わる人の
意見を多数集めて最適解を求める。
子育て中の女性医師のキャリア支援を始めた頃、子育て経験のない自分は「働く上で男女は対等」と思っていました。しかし、同世代の女性医師が何人も悩む姿に直面し、課題や要望を聞くと実情がよく分かり、仲間の声を代弁しようと意欲的に取り組みました。一方、当時は仕事のみに専念していたため男性や子どものいない女性の立場や仕事にかける思いもよくわかりました。このため、両者の橋渡しをしながら最適解を求められたのだと思います。
ある1日のスケジュール
- ★5:30
- 起床、仕事、家事、身支度
- ★6:30
- 朝食、子どもの登園準備、家事
- ★7:15
- 家を出る、保育園に子どもを送り届ける
- ★8:00
- 出勤、メールチェック
- ★8:30
- カンファレンス
- ★9:00
- 外来診療
- ★17:00
- 昼食
- ★17:15
- メール返信
- ★18:00
- 退勤、保育園のお迎え
- ★18:30
- 夕食準備
- ★19:00
- 夕食
- ★19:30
- 子どもの入浴
- ★20:00
- 洗濯、夕食の片づけ、子どもの相手(夫と分担)
- ★21:00
- 寝かしつけ、翌日の準備
- ★22:00
- 残務整理
- 0:30
- 就寝

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授
岡山大学医療人キャリアセンターMUSCATセンター長
片岡 仁美さん
46歳
[リラックス法]
人と話すこと。空を見上げること
[オススメの本]
服部祥子先生の本全般
ヴィクトール・E・フランクル『夜と霧』
『それでも人生にイエスと言う』
[自分磨き術]
読書
[将来の夢/挑戦したいこと]
臨床医として一生、目の前の患者さんに貢献していきたい。
[好きな食べ物]
クッキー、ゆば、チーズ
本部所在地:岡山市北区津島中1丁目1番1号
HP:http://www.okayama-u.ac.jp/